-文化財を保存すること-
みなさま、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
7回目を迎えるこのシリーズもこれが最終回となります。
最後にここでもう一度、「文化財としての価値」とは何かという点について考えてみたいと思います。
文化財建造物の価値とは、一般的には建造物そのものの価値を指しています。しかし私は、文化財建造物の価値とは「建造物の価値だけを指すのではない」と考えています。
文化財建造物とは、建造物がただそこにあるだけで文化財になるでしょうか。もちろんそれにふさわしい建造物自体の価値は必要です。しかし、私は、その建造物の価値を理解する人たちがいて初めて、文化財建造物になるのだと思います。つまり、「『建造物』と『人』の両方があって初めて文化財が成立するのではないか」ということです。
その建造物を作ったのも「人」であり、それを使用してきたのも「人」、文化財としての価値があると判断したのも「人」、修理をするのも「人」、文化財として受け継ぎ守り伝えていくのも「人」です。人が建物の価値を認め、大切に思う気持ちがあって初めて文化財として成立し得るのではないでしょうか。これを読んでおられるみなさまも、文化財に関わり、また興味をもっていることで、文化財の価値を支える大切なひとりではないかと思います。私は、文化財の本当の価値とは、歴史的な価値ある文化財建造物を媒介に、人々がその価値を理解し大切に未来に伝えようとする行為自体なのではないかと思っています。
そのように文化財の価値に人との関わりも含むものとした時、地震で壊れた建物によって人が傷つくということが生じたら、その価値はどうなるのでしょうか。みなさまやみなさまの大切な方が、文化財建造物によって傷ついたとしても、同じようにその建物は愛されることができるのでしょうか。文化財建造物は、半永久的な存在です。建物によって人が傷ついたとき、半永久的にその悲しい記憶が刻みつけられることになるのです。それを考えると、私は、耐震補強を行って悲しいことが起こらないようにすることも、文化財建造物の価値を保存することになると考えております。
耐震補強は、細部において文化財を傷つけることになるかもしれません。しかし、それが文化財自体とそれを保存する人たちを守ることになるのだとすれば、これもまた文化財を保存する行為のひとつだと言ってもよいのではないでしょうか。
文化財建造物に耐震補強は必要なのか。
私は必要ということでよいのではないかと思います。
江戸東京たてもの園 /東京