みなさん、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
長らく止まっていた旅行記ですが、このたび一気に終わらせました。お待たせしていた方、遅くなりすいませんでした。今年のGWは、レンタカーにてイギリスに産業遺産の旅をしてきました。また、機会があればご報告いたします。まずは、ベルギー・オランダ編を一挙三連投で完結いたします!
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アントウェルペンのホテルで朝食をとる。このホテルは、これまで泊まってきたホテルよりグレードが低く、町から少し離れた場所にある。ここを選んだ理由は、ホテルの食堂の写真が美しかったからだ。
窓や内装がアールヌーボー様式でまとめられており、とても美しい食堂であった。ただ、朝食は値段だけあって、種類も少なく普通な食事。二日前に宿泊した教会の朝食が良すぎて、どうしても感動が薄くなる。宿泊の値段が3倍ぐらい違うのだからしょうがない。しかし、エレベーターがなく4階まで手で荷物をもってあがるのは大変だった。
実はここでも車の駐車問題で悩まされた。ホテル前の側道に駐車スペースがあるのだが、ホテルの専用ではなく普通のコインパーキングであり、到着が遅かったため駐めるところがない。探しに探して少しはみ出す形でなんとか駐めた。料金は夜間から9時までは無料だったので、9時までに出発する。
本日の第一目的は、アントウェルペン中央駅の駅舎である。この駅舎は、1895年から1905年にかけてアントウェルペン出身の建築家、Jan van Asperen とClement van Bogaert によって建て替えられ、石造の駅舎と巨大な鉄骨アーチによるターミナルが作られた。また、1998年から2007年にも駅の改良工事が行われている(Wikipediaより)。見たかったのはこの鉄骨アーチであった。
このアーチは、幅185m高さ44mで、両端とアーチの頂点であるアーチクラウンをピン接合とする3ヒンジアーチと呼ばれる形式である。大阪の桜宮橋でもこの構造形式が使われているが、他にあまりお目にかかることのない形式である。3ヒンジにすることによって静定構造となるが、支点に不備が生じる懸念からあまり使われることがないらしい。
3ヒンジアーチは、アーチクラウンがピンとなることで曲げ応力がなくなるのでクラウンの断面が細くなる。そのため、アーチの形状が、アーチの端部からクラウンにかけての間で太くなり、また頂点で細くなるという独特の形状となる。この駅舎のアーチはまさにそのような形状をとっている。
また、桁行の外周部は大アーチのスパンごとに正円アーチの連続となっており、正円アーチから梁間方向にボールト屋根を架けている。内部からみるとボールトが斜めに切り取られるために、楕円の連続となって表れている。構造的合理性が意匠的表現となっており、鉄ならではの構造デザインを感じることができる。
石造の駅舎もアーチとボールト、ドームを組み合わせた教会を思わせる荘厳な大空間である。プラットホームから駅舎を見ると、石造建物の外にステンドグラスがあるようなギャップのある景観になっていてこれも斬新である。
本当によい建物で、いつまでもここにいたくなってしまうが、そういう訳にもいかないので、次へと向かう。
アントウェルペンというとあまりなじみがないが、アントワープと英語読みをすると、日本で意外と耳にしたことがある音になる。それは、「フランダースの犬」の目的地だったからだろう。となると、見るべきは大聖堂のルーベンスの絵である。大教会もルーベンスももちろん見たいが、ネタとしては「フランダースの犬」のルーベンスを見なければ。ということで、大教会へと向かう。
教会までの道に立つ建築も重厚な建物がちらほら。あらためてさすがのヨーロッパ大都市。さまざまな妻壁が美しい市役所前の広場を通り抜けて、大聖堂に入る。
中央にある聖母被昇天をみて、これがネロの見たかった絵だと思い、クエストひとつクリアと思ったが、日本に帰ってからこれではないことを知る。ネロが見たかったのは2枚の絵で、実は祭壇の左右にあるルーベンスの絵であった。もちろんこれも見ていたが、どうも認識が間違っていた。残念。
その後、昼食にウサギのシチューを食べて、ルーベンスの館へ。これはルーベンスの自邸を美術館に改修したものである。この自邸もルーベンスの設計したポーチなどがあり、その才能の多彩さに感心した。
次にプランタン=モレトゥス印刷博物館へ行き、活版印刷の世界遺産を拝見。世界三大発明である活版印刷。中学・高校での歴史の勉強では、言葉として知っていたが、なぜそんなに三大発明と騒ぐのかは分かっていなかった。活版印刷があったからこそ、聖書が広く世に拡がり、プロテスタントが生まれて宗教改革に至ったことを考えると、確かに時代を転換する発明である。また、ここアントウェルペンが印刷の中心になったことを考えると、いかにここが繁栄していたかが想像できる。
ブリュッセルへと向かう前にこれまた世界遺産のズーレンボルグ・ベルへム地区に寄っていく。あまり予備知識なく行ったのだが、結構な範囲でアールヌーボーの住宅が並んでおり、散策の楽しそうな場所である。しかし18時までにレンタカーを返す必要があったので、車でざっとみて少し歩いておわり。また改めて来ないとだめだな。アントウェルペンは奥深い。
ブリュッセルのホテルは、刑務所を改造した五つ星ホテル。日本でも刑務所をホテルにという話があるので、あえてそこに泊まることにした。五つ星ということもあり、中はきちんとしたホテルとなっており、さすがに刑務所の痕跡はない。ある意味、残念だ。ホテルのそばが、グランパレスという観光の中心となる広場という好立地。グランパレスでは、夜にはプロジェクションマッピングが行われていた。これが一番建物にはダメージを与えない活用ではないかと思う。
晩ご飯は、牛肉のビール煮込み。そしてビール。肉も多いのだがマッシュポテトもさらに多い。ビール二杯とこの一品でおなかはいっぱいとなる。いろいろ食べたいんだがなあ。店の窓や装飾を見るとアール・ヌーボーな意匠。明日からは、アール・ヌーボー三昧の予定なので、その予行演習かな。