みなさま、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
引き続き、清水寺舞台の構造補強について説明します。
この建物は、規模が小さく形状もシンプルなのですが、耐震診断と構造補強を行う上ではとても難しい架構の建物でした。
まずは地震力の設定が課題でした。屋根がない建物なので人の荷重で地震力が決まってしまうのですが、人が大勢いるときといないときで積載荷重が大きく異なってきます。つまり、どのくらいの人数と想定するかで耐震性が大きく異なることになります。想定人数が多すぎると補強が過剰になってしまいますし、少ないと想定以上の人が載っていると地震で壊れてしまいます。
つぎにやっかいのは、崖の奥から手前にかけて柱の長さが変わることです。柱の長さが異なるということは、頂部の変形が同じだと、柱の傾斜角度が異なることになります。その場合、中間で繋がれる貫位置では、それぞれの柱の移動量が異なることから、接合部間が変化し、貫に軸力が生じます。貫の移動に伴い、楔が抜けてしまうと柱と貫の接合部の耐力がなくなってしまいます。
このように柱の長さが違うだけで、架構の変形を想定することがとても難しくなります。
また、舞台の下は柱と貫だけで構成されているので、耐震性が不足した場合に柱に壁を付けるなどの補強を行うと、外部に露出してしまいます。しかも本堂のからの帰り道に舞台下のすぐ横を観光客がとおり抜けていきますので、床下での補強は丸見えになってしまいます。これでは、せっかくの懸造の意匠を台無しにしてしまいます。骨組だけの建物であるだけに、補強を見えなくするためには、工夫を要することになりました。
そんな条件の中で、建物の耐震診断を行い、耐震性能が不足していたので補強設計を行うことになりました。
耐震補強としては、懸造の意匠に影響をしないように、奥院の柱脚間の中央位置で崖に対してアンカーを打ち、アンカーと舞台の床を支える大引をブレースで繋ぐということを行いました。結果としては、建物の規模に対しては大がかりな補強であったかもしれません。
なぜそのような補強になったのか。それは、舞台を絶対に落とさないためです。
構造解析も行いましたが、柱の長さが違う場合の貫や楔の挙動には実証されたデータがなく、その正確性にはどうしても疑問が生じます。そこで、補強を最小限度として倒れるぎりぎりまで変形させるという伝統木造によく採用される考え方ではなく、しっかりと崖と直接繋ぐことで補強をして、舞台を絶対に落とさないという考え方を採用しました。
この舞台の補強設計は、京都府の修理技師の方とやりとりを重ねました。文化財として何を守りたいかということや、必要な安全性について多くの協議したことは、とても記憶に残っています。あの位置で地山にアンカーを打つ工事も大変でしたが、施工業者の方ががんばってくれました。
現在でも崖の橋を歩いて舞台の真下まで行けば、奥の方にアンカーをみることができます。ただ通常は行けないところですので、行かないようにして下さいね。
せっかく見えないようにした補強を、わざわざ見に行くこともないでしょうが。
なお現在、清水寺では本堂を初めとする諸堂の修理を行っております。
では、今回はこの辺で。
清水寺奥院小舞台耐震補強 / 京都