みなさま、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
大分間があいてしまい申し訳ございません。気づけばもう師走もすぐそこまで来ております。一年も過ぎてしまえばあっという間のことですね。
さて、今回は保存活用計画について書こうと思います。
文化庁より平成8年に「重要文化財(建造物)の活用に対する基本的な考え方」が報告され、活用に対する考え方が示され、その中で保存活用計画の必要性が記載されております。その後、平成11年に「重要文化財(建造物)保存活用計画策定指針」が示されました。
この基本的な考え方の中で、「文化財(建造物)が価値あるものとして後世に伝えるべきものであることについて理解を広げ、深めるためには、文化財(建造物)の保存とともに活用を適切に進めることが大切である。」と記載されています。保存とともに活用を適切に進めるために必要な計画が、「保存活用計画」なのです。
ここで注意しなければならないのは、保存活用計画策定の最大の目的とは、「具体的な活用方法を決定することではない」ということです。主たる目的は、「文化財的価値の保存と両立するための活用のルールを定めること」にあります。
例えば、使われていない文化財の洋館があったときに、レストランに改造する計画を作ることだけでは、保存活用計画にはなりません。まずは、その洋館の文化財としての価値を理解することから始める必要があります。文化財としてどの部分に価値があるのかを調査し、その部分や建物全体をどのように保護し保存していくかのルールを定めなければなりません。その後、そのルールにそった方法で今後の活用を計画することになります。
文化財において最も必要なことは、その文化財的価値を保存することです。一度失ってしまった価値はもう二度と取り戻すことはできません。同じように復原をしたとしても、それは同じものではありません。そのものが持つ物質的な特徴や経年などの歴史的特徴を付加することはできないのです。だからこそ、将来に向けて保存して行く必要があるのです。
一方、活用とは時代や社会とともに変化していく可能性のあるものです。今はレストランとして使用したとしても、また次は公民館や事務所になる可能性もあります。活用がかわる度に、工事によって文化財の価値が損われてしまっては、文化財の価値がどんどん無くなってしまいます。
どのように活用すれば、文化財の価値を損ねずに活用することができるのか。それを定めるのが、保存活用計画なのです。
文化財建造物を所有、管理している人であっても、建築や文化財の専門家でない限りは、その建物のどこに価値があるのかということを細かく把握することは難しいことです。また、例えその方が知っておられたとしても、それを次の方に確実に引き継ぐことをしなければなりません。そのため、保存活用計画を策定し、どの部分が大切なのかをきちんと文字や写真で記録しておくことで、その情報を共有、伝達することが容易になります。
また、実際策定に関わっていると、保存活用計画策定の過程の中で、文化財に対する知識が増えてゆき、文化財に対する認識も変わり、以前よりもずっと保存に前向きになる方が多いです。その価値を見直す中で、多くの関係者の文化財に対する認識を新たにすることができるのも、保存活用計画策定のよいところだと考えています。
近年では、補助金の条件として保存活用計画が策定されることもありますので、とにかく作らないとと考えておられる方もおられるかもしれません。保存活用計画策定は、文化財の保存のみならず、価値の共有や広報という面でもとても有効なものですので、ぜひこの機会に文化財と向き合い、よいものを作られたらと思います。
保存活用計画によって、文化財的な価値の確認と再認識を行い、その価値を活かした活用を計画する。それが、保存活用計画の理想的な姿ではないかと思います。
登録有形文化財 白川小学校 / 三重県