第Ⅱ章 耐震診断 第2節 3段階の耐震診断について
その1 耐震予備診断
こんにちは、文化財構造計画の冨永です。
寒い日が続きますね。手引の手引の記載をかなりさぼってしまい申し訳ございません。また再開したいと思います。
Ⅱ章の第1節は概要なので、第2節の3段階の耐震診断のうち、耐震予備診断について記述したいと思います。
「重要文化財(建造物)耐震診断」では、「耐震予備診断」、「耐震基礎診断」、「耐震専門診断」の3段階の診断方法を示しています。「耐震予備診断」は以前「所有者診断」という名称でしたが、実際は専門家によってなされるようになったため、内容に対して名称が適切でないということで、「耐震予備診断」となりました。
まず、「耐震予備診断」で重要なことは、この診断では建物の耐震性能を把握することができないということです。
手引きには、「当該診断は、耐震性能を定量的に判定するものではなく、あくまで修理や耐震基礎診断・耐震専門診断を実施する緊急性について判定するものである。」と記載されています。これは、文化財建造物全体の中での優先順位を定めるということであり、個々の建物が安全かどうかについては判断できないということ表しています。専門家であればすぐに分かることなのですが、診断の内容自体が定量的な耐震性の評価をほとんどしていません。あくまで、地震に有利・不利な条件がどの程度そろっているかを数えているだけです。それゆえに、「予備診断」という名前になっているのです。
予備診断における耐震性能の判定は、
ア 重要文化財(建造物)がおおむね耐震性を確保しているとみなされる。
イ 重要文化財(建造物)本来の構造的な健全性を回復されるための措置(簡単な応急的補強を含む)、または管理・活用方法の改善措置を行う必要がある。
ウ 重要文化財(建造物)の根本的な修理(補強を含む)または使用方法の見直しが必要となる可能性が高く、速やかに耐震基礎診断を実施する必要がある。
の3つとなっています。しかし、先ほども述べたように個々の建物の耐震性能の確認は行っていないので、あくまで緊急性を比較するためのものになります。アについては、定量的な判定ではないといっている反面、「おおむね耐震性を確保しているとみなされる」という安全かのように書かれていますが、これも耐震診断を実施した場合と同等の安全性を保有しているとはいえるものではないので注意が必要です。
耐震診断は、その建物が必要としている性能を満たしているかどうかを判断するものです。そこには建物の安全性に対する社会的責任というとてもシビアな問題があるものです。この予備診断でアとなったからといって、実態としては安全性が分かるわけではないのですから、本来の意味での耐震診断ではありません。そのため、この数字を上げる改修を行ったとしても、目標耐震性能に達しているのかどうかが分からないので、所有者が求めている構造補強をしたとは言いがたいのではないかと思います。
再度述べますが、耐震予備診断は、地震に対する対策の優先順位を決めるという行政的判断のための診断です。専門家の方は、きちんと所有者の方々に説明するようにしてください。
ほとんどの重要文化財ではこの予備診断が終わっていると思いますので、それは文化庁が適切に指導していることと思います。もし、これを参考に地方行政でも耐震調査を行おうとされる場合には、これまで上げた点には十分に留意をしてください。