私たちのおもい
歴史ある建物を未来につなぐ
私たちは安全対策や保存活用という面から文化財建造物や歴史的建造物に日々接しています。それらの建物は、年月を経てきたというだけではなく、卓抜な意匠やその当時独特の技法や、その背景となる社会文化などの情報を多く保有しており、一度失われてしまえば二度と取り戻すことができない貴重なものです。
ですので、安全対策として構造補強を行うときには、とても慎重に方法を考えなければなりません。ただ建物を安全にすればよいというのではなく、歴史的、文化財的な価値とも向き合い、建物にとって最もよい方法を探る必要があります。
私たちの仕事は、建物の安全対策を計画することです。しかし、私たちの仕事はそれ自体が目的なのではなく、貴重な建物を保存し未来につなぐ仕事の一部であると考えています。
人を守ることが文化財を守る
文化財建造物や歴史的建造物は、その時代の特徴や特別な装飾など建築物自体として良いものであることももちろんですが、これまでの年月の間に関わった多くの人たちによって刻まれた記録や記憶も魅力のひとつです。また今それを引き継いでいる人たちも、その建物を大切に思っておられます。
文化財建造物や歴史的建造物は、建物が勝手に残っているのではなく、それらの建物をとりまく人々によって守られてきたものです。建物を貴重なものだと思う人たちがいるからこそ、文化財たり得るのではないでしょうか。人があってこその文化財ではないかと思っています。
そのように建物を大切に思っておられる方が、建物によって傷つくようなことはあってはならないのではないでしょうか。建物を大切にするだけではなく、建物を守る人を大切にすることも重要なことだと考えています。
安全にすることで保存することができる
私たちは、文化財を中心とする歴史的な建造物の耐震診断や構造補強の仕事を主にしています。その中で関わる多くの方が考えておられることが、
「文化財建造物に本当に安全性が必要なのか」
ということです。みなさん、安全な方がよいことは分かっています。しかし、構造補強案を目の前にされると、「文化財に手を加えてまで補強しなければいけないのか」というジレンマに陥ってしまいます。特に歴史や文化財の知識の豊富な方であるほどその思いは強いように思います。知識や愛情が深いほど一部分であっても文化財に手をつけて変えてしまうことに抵抗を覚えるのは当然のことだと思います。
では、なぜ安全である必要があるのでしょうか。それは建物を使うためです。誰も近寄らないような建物であれば、建物が地震で倒れても誰も怪我をしません。その建物を活用するからこそ安全が必要なのです。
建物を維持することは、経済的にとても大変なことです。数十年ごとに小修理があり、百五十年ごとに大きな修理が必要となります。活用できない建物を維持し続けることは難しいと思いませんか。
私たちは歴史的建造物が安全になって活用されることこそが、建物の保存に無くてはならないものだと思います。