みなさま、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
これだけ暑い日が続くとまだ7月後半であることを忘れてしまそうですね。
さて、今回は清水寺奥院舞台の構造補強について書かせて頂きます。
清水寺というお寺は、実は日本にたくさんありますが、今回の清水寺は最も有名な京都五条の清水寺です。奥院舞台は、本堂より少し奥にありまして、舞台と本堂が一番よく見えるところです。毎年年末になると、ここで「今年の漢字」を貫主さまが書いておられます。
清水寺奥院舞台 /京都(北西より見上げ)
私は前々職場でこの舞台の耐震診断と補強設計を担当したのですが、私にとって、ここの仕事は文化財の構造設計というものの重みを一番感じた案件でした。
清水寺舞台は、文化財建造物の中でも有数の観光客が多い建物になります。清水寺の中でも絶景スポットであるこの場所に、立たない人はいないでしょう。年間500万人以上が立っていることになるのではないでしょうか。
そんな場所であるこの舞台が、もし人が大勢載っているときに、大地震で崖側に倒壊したらどうなるでしょうか。
怪我では済まない人たちが多くでるかもしれません。
また、有名な建物だけに社会に与える影響も大きいです。建物の安全管理の問題が、社会的な問題へと拡大する可能性があります。
文化財建造物の地震に対する安全性は大丈夫なのか。そんなふうに問われるかもしれません。そうなってしまったら、問題はこの建物だけのことではなくなってしまいます。全国の文化財建造物の安全性と管理体制が、大きく問われることになってしまうかもしれないのです。
私はそこまで考えたとき、自分の構造に対する甘さに気づきました。それまでの私は、文化財に対する補強を減らすためのテクニックにばかり気を取られ、本来の目的である「建物を誰に対してどう安全を確保するか」という発想が後回しになっていたのです。もっと正確に言えば、安全というシビアな問題から逃げていたのかもしれません。
自分の仕事は、補強をすることではなく、建物を安全にすることである。
このような当たり前のことに改めて気づかされました。
いまでも構造補強の設計をするときには、いつもこの建物と直面していた時を思い出します。
現在の技術では完全に地震に対して安全にすることはできません。それでも、いろんな事態を想定した上で目をそらさずに真摯に対応し、可能な限り安全性を確保する。そのように正直に安全と向かい合うことが、文化財の保存につながることだと信じております。
長くなってしまいましたので、具体的な補強の話は次回に書くことといたします。
清水寺奥院舞台 /京都 (本堂舞台より)