みなさま、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
早いものでもう年の瀬が押し迫って参りました。気づけばとても寒いですし、時間が一気に過ぎてしまったような気がします。
今回は、「文化財調査という錬金術」というお題で書いていきたいと思います。
文化財の修理に関わっていて面白いと感じることのひとつに、関わる人々の心の変化があります。
文化財建造物というのは、当然古い建物ですので不便な面もありますし、文化財ということで変更を行えないなどの制約もあります。また維持にもそれなりに費用がかかりますが、「壊して収益物件を建てよう」という訳には参りません。所有者の側に立つと、文化財はやっかいなものという意識をお持ちの方が多いことも理解ができます。
大規模な修理となるとやはりそれなりの費用がかかります。経年による劣化の復旧だけではなく、地震・火事などの災害に対する対応、活用に絡む設備などの更新、など様々な問題が浮上して参ります。何から手をつけたらよいのか・・と悩んでられる方も少なくありません。
保存活用計画というのは、こういう状況の中で関わりはじめることが多くなります。そこでまず文化財の現況の状態を探るところから初めて行くことになります。どの部分が古い当初のもので、どれが新しく変えられたものか。建物の文化財として価値のあるところを探っていくことになります。
その文化財の所有者の方であっても、これまでの建物との関わりによっては、その価値がどこにあるのかよくわかっておられない場合があります。
その建物のどんなものが貴重なもので、どんな価値があり、またそれをどんな風に捉えればよいのか。調査の結果基づいて、そんなことをそれらの方々に話していると、少しずつ文化財のよさに気づいて来られます。
初めは「文化財は何さえ残しておけばよいのか」と変えることを前提に話をしていた人たちも、今度は逆に「この建物をもっと残せないか」と考えるようになってきます。
もちろんこの調査の間に建物自身は何も変わっていません。それにも関わらず、その方の中で古くてやっかいなものから、大切なものへと変化しています。
その原因は、「文化財の価値に気づく」という意識の変換です。ただ「文化財の価値」とはどういったものかということに「気づく」、「理解する」だけで、本人の中で価値が何倍にもなっているのです。
まるで錬金術のようだとは思いませんか?
これは、文化財建造物がもともと「金」だっただけのことかもしれません。けれども、どれだけの価値を持っていようとも、その人が「鉄」と思えば、「鉄」としか扱われないのです。「金」は「金」であることを理解できて初めて「金」となるのです。そして一度その価値に気づかれた「金」は「鉄」に戻ることはありません。
その建物を良いものであることを個々で発見し、そしてそれを共有し、どう保存するのがよいか知恵を出し合うことが、文化財修理に関わる醍醐味と言えるでしょう。
私たちは、文化財に関わる専門家として、よい「触媒」となれたらと思っております。
登録有形文化財 墨会館 / 愛知県