みなさま、あけましておめでとうございます。
文化財構造計画の冨永です。
早いものでもう年が明けて10日以上過ぎております。年明けからばたばたしており、なかなか更新できずに申し訳ございません。今年は間は少し空いてもクオリティの高い投稿ができるよう心がけようと考えております。
さて、今年初めてのブログは、文化財構造補強を考える上で必要となる3つの観点についてお話したいと思います。
文化財建造物の補強の議論を行う際に、問題となる個所がどこに起因するものか整理できず、交わらない議論となることがあります。
例えば、よく見られる意見としてこのようなものがあります。
「壁を新たにつける補強は文化財に配慮していないので許さないが、小屋裏ならば見えないので、そこだけなら構わない。ただ、公開するので地震がきても逃げられるような最低限の耐震性は必要だ。」
文化財建造物の補強に対して良くある要望なのですが、これには複数の次元の要望が織り交ぜられています。 これを次の3つの観点から整理してみたいと思います。
① 文化財的観点
文化財としての文化財建造物
② 物理的観点
構造物としての文化財建造物
③社会的観点
社会一般で認識される建築としての文化財建造物
文化財建造物は、美術工芸品などと同じようにその美術的、歴史的価値を認められ保護されるものです。 また、重力や地震などの水平力にどう抵抗し、変形するのかといった物理的な視点からの構造物としての側面もあります。
そして、文化財建造物も様々な用途で建築として社会で使用されるためには、その社会の中で決められたルールに従う必要があります。安全性もその一つです。
安全というものは、絶対的なものではなく、その社会で共通に認識される価値観によって定められるものです。そのような社会における用途のための器である建築として扱う観点が、社会的観点になります。
それでは、先に挙げた文章はどのような観点から判断しているのでしょうか。
「壁を新たにつけるな、小屋裏ならよい」というのは、文化財的観点からの判断になります。建物の間柱装置の変更は文化財上大きな変更になるからです。
しかし一方で、耐震対策として壁を新たに設けるということは、物理的観点と社会的観点からの判断から生じています。建物の耐震性を向上させるためには、構造体として有効な位置に耐力要素を設けなければなりません。そのため物理的な観点から小屋裏だけで補強できるとは限りません。どの程度の耐震性が必要かという点は、社会的観点からの判断になります。
また、文章内の「地震が来ても逃げられるような」という安全性に対する条件は、社会的観点からの判断からになります。ここで注意が必要なのは、この判断は個人的な見解から決めることができないことです。社会で共通認識されているものに従うことが必要なのです。
このように先の文章には3つの観点からの意見が織り込まれておりました。
そして、各観点で生じている問題点は、その観点からの解決策を求めなければなりません。それぞれの観点の次元は異なっているためです。ある次元の事柄を違う次元で変更することはできず、その次元で答えを見つける必要があるからです。
例えば、文化財保護をどれほど訴えても、安全性は上がりませんし、また設計者がどんな解析をしても社会のルールは変わりません。
複数の次元で生じている問題を折り合わせるには、問題となることがどのような観点から見た場合に生じているのかを冷静に分類することがまず必要です。
各次元での問題点を整理し、折り合うところを冷静に見つけることが、よりよい補強への近道となります。
この3つの観点の話は、2008年のACCUで初めて公表したものです。その後、国内の研修や中国、ギリシアなどの海外での講義、発表なども行っておりますが、この補強における3つの観点の説明した後に補強の事例説明を行うと、補強に対して理解しやすいというご意見をいただきました。
次回は、耐震診断から構造補強への作業に流れを3つの観点から分類したいと思います。
では、今回はこの辺で。
宗像大社 本殿 / 福岡県