-第Ⅰ章 耐震診断・耐震補強の概要について その2-
みなさん、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
夏も盛りで台風がぼちぼちとやってくる季節となりました。大きな修理工事では解体中に建物がぬれないように素屋根という大きな覆屋を設置して工事を行いますが、これは風の当たる面積が大きい割に仮設であるため軽い構造になるので、台風の影響を大いにうけてしまいます。現場の方はみな、台風には戦々恐々しておられるようです。
さて、今回は「重要文化財(建造物)耐震診断・耐震補強の手引」の「第Ⅰ章 耐震診断・耐震補強の概要」の第2節を説明したいと思います。
第2節 耐震診断・耐震補強の流れ
この節では、耐震診断の手順や着手時期、体制についての記載がされています。診断の手順は次章で詳細に説明されていますので、後に送ります。
実施時期については、建物の解体範囲と補強の施工を考慮して、もっとも建物に影響を与えないタイミングで実施すべきだと記述されています。それは、解体をすることはどうしても部材を傷めることになってしまうからです。これから修理が繰り返されるのならば、部材はどんどん傷められ当初の部材は失って行かざるをえません。そのため、解体は極力少なくしたいというのが文化庁の意向です。もちろん、工事費を極力少なくしたいという経済的な面も含まれます。
次に技術者との連携が書かれていますが、ここで重要なことは所有者と文化財修理技術者と建築構造専門家の連携が重要であるということです。構造は専門性が強く専門外の人間には理解しにくい内容が多いですが、文化財修理技術者はその本質を理解し、文化財建造物との納まりを判断しなければなりません。そして、その結果を所有者にきちんと説明する必要があります。修理が終わった後に、建物の管理をするのは所有者です。所有者に文化財としての価値、安全に対する配慮が理解できるよう文化財、構造の技術者は互いに連携し、分かりやすい発信を心がけなければならないのです。
また耐震診断の実施にあたっては、その手順も重要となります。実は私が経験上最も重要と考えているのはこの作業手順です。間違った手順を踏むとせっかくの費用と時間を使って進めてきた計画が行き止まってしまう危険があるからです。調査をすべき時にせず、後になって新たなことが判明したことによって、すべてが無駄になってしまうこともあります。費用ももちろんですが、失ってしまった時間は取り戻せません。必要な調査項目、補助金申請のタイミング、それぞれの作業にかかる費用などすべてをきちんと整理した上で実行することが、もっとも効率的で経済的な結果となります。とりあえずで臨むのではなく、ここでしっかりと計画を立てることが重要です。
文化財においては、耐震診断を実施する前に保存活用計画を策定しておくことは、構造補強案を策定する際にとても有利になります。なぜなら、保存活用計画において文化財的価値の整理が行われていれば、補強をどのように設置することが建造物の文化財的価値を損なわない方法なのかの判断ができるからです。また、修理等の計画と補強の関係も明確となり、補強の方針が立てやすくなります。手順の話と同様ですが、考えられる事項を事前に挙げておき、効率良く進める計画を策定することは手間がかかりますが、最終的には早く安くよいものができることにつながります。
ざっと説明しましたが、耐震診断の実施に際しては、具体的な耐震診断の作業だけではなく、様々なとりまく状況や条件が影響してきます。これらをきちんと整理し、関係者全員が理解した上で耐震診断に臨むことが、よい補強への第一歩だと考えております。