第Ⅱ章 耐震診断 第2節 3段階の耐震診断について
その2 耐震基礎診断と耐震専門診断
みなさま、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
暖かくなりかけたと思ったとたん、また寒い日が続いております。私たちは年度末に締め切りとなる仕事がたくさんありますので、事務所もばたばたとしており、現場に行くときにのみ季節を感じるというところです。
さて、今回は、耐震基礎診断と耐震専門診断の違いについてお書きしたいと思います。
耐震基礎診断と耐震専門診断の違いは、解析手法ではなく建物状況の違いによります。よく誤解されていますが、「基礎診断」とは、「簡易な診断」ではありません。耐震基礎診断では、この「基礎」の意味合いを理解することが重要になります。
手引には、「耐震基礎診断の「基礎」という文言は、将来実施される「耐震専門診断」に対応して基礎的という位置づけであり、簡易な診断を示しているのではない。」と書かれています。基礎診断と専門診断は、診断方法の簡易さを表すのではなく、解体等によって完全な構造の情報が得られるか、得られないかの違いを表しています。そのため、時刻歴応答解析(振動解析ともいうが)を行ったとしても、解体等によって仕口や納まりの調査をしていなければ、それは基礎診断となります。そして、解体修理時に行う診断が耐震専門診断となります。
基礎診断の結果は、2つの方向性で使用されることになります。まず、建物が解体等の大きな修理を伴わない場合には、その基礎診断結果によって作成された補強方法で補強工事を実施することになります。
一方、解体を伴う場合には、それによって新たな知見が得られることになりますので、基礎診断をもとに新たな知見を反映した専門診断を実施し、補強方法を見直すことが必要となります。変更が基礎診断時の想定内であれば、ディテールの修正程度で済む場合もありますが、解体前では見えなかった部分での想定外の納まりや、復原等の現状変更を伴う構造体・荷重の変更が生じることもあります。
「解体修理を行う際にまた診断をするのであれば、基礎診断を実施することが無意味ではないのか」というようにも考えられますが、そうではありません。事前に診断することによって、補強工事費の概算算出や解体範囲の見直し、問題点を協議する時間の増加など、より計画的に修理工事を行うことができるようになります。そのため、基礎診断を実施する際には、今後どのようにその結果が使用されるのかということを十分吟味し、実施することが重要となります。
基礎診断では次につなげる補強案を、専門診断では最終の補強案を作るという認識で取り組むのがよいかと思います。