みなさん、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
今年の年度末のごたごたにおされ、ブログは開店休業状態でした。前回も途中で終わってしまった旅行記、今回も半ばあきらめておりましたが、読んでいるという反響を聞いてしまったので、これはやっぱりきちんと書いて終わらせねば!ということで続きをようやく書いてみます。
5/3
朝、外の運河からなにやら音がするので目が覚める。どうやら、前に泊まっていた浚渫船が稼働しているようだ。ホテルの人が朝何時に起きるのか聞いていたのはこのためか。部屋の前で浚渫工事をするんだからそりゃうるさい。こんな時は、さっさと部屋を出るに限る。
朝食はホテルの本館まで食べに行かないといけないので断っていた。わざわざ行くなら喫茶店でも同じだし、その方が安い。しかし、良い店を見つけることができなかったので、お菓子と小さなパンを買って車内で食べることで次へとつないだ。
ロッテルダムに向かう途中で、そろそろガソリンを補給しなければならなくなってきた。しかし、どうやって入れればよいのだろう?なんか、レンタカー屋の店員は、「間違えずにペトロを入れろ」と言っていた。ペトロは石油なんだから、他に何をいれるんだろう?よく分からないまま、高速道路のサービスエリアに車を止めた。
とりあえずガソリンスタンドの給油場所にとめる。当然セルフのようだ。日本と同じように何種類かの給油ノズルがあって、「Diesel」と「euro95」、「euro98」と書かれている。おそらく、petroはガソリンなのだろう・・・たぶん。しかし、Diesel=軽油だって石油である。そもそも「euro95」って、ガソリンなのだろうか。またどうやって入れればよいのだろう。
ガソリンをいれないままいったん、別の場所に車を止めて休憩。売店に入り、サンドイッチを食べながら様子をみる。どうもガソリンを入れた人たちは、買い物と一緒にガソリン代を払っているようだ。ひとつ問題は解決した。あとは、何をいれるかである。
このままここにいてもしょうが無いので、「euro95」を入れる決断をして再度スタンド内に車を回す。少しどきどきしながら、給油口をあけようとすると、給油口の蓋に「euro95」と書かれてある。なんだ、それでいいんじゃないか。やっと、給油をすることができた。
ガソリンひとつでかなり精神力を使ったが、これもある意味旅の醍醐味か。とにかく一人でなんとかする。仕事は共同作業なので、普段は誰かに何かをお願いしたり、相談したりしているが、ここではそれはない。ひとりで考え、一人で決める。助けてくれるのはgoogle先生だけである。
そんなこんなで、ロッテルダムに着く。ここでは、「クンストハル美術館」「ファン・ネレ工場」「建築博物館」が目当てである。まずは、クンストハル美術館に向かう。
レンタカーの旅の最大の問題は、駐車場である。どこに駐めてどのようにいくらをどのように支払うのか。オランダの最大の問題はここにあった。とりあえず、クンストハル美術館の横には、駅と一体となった大きな駐車場があったので、そこに停車し、美術館に向かう。どうしたら出られるのかは、あとで考えることにする。
ここ長らく建物といえば、歴史的な建物かそれをコンバージョンした建物を見ることが中心で新しく作られた、いわゆる建築家の建物は長らく真剣に見ていない気がする。とくに海外ではそうかもしれない。ここの美術館は、レム・コールハースの建物ということで、建築本で紹介されていたから見に来てみた。
この美術館を調べると盗難事件が真っ先に検索に上がる。どうも200億円相当の美術品が盗難にあったため、改修を行ったそうである。「見せること」と「守ること」は相反していることで両立が難しい問題である。どこをどうしたのかは分からなかった。
建物全体の感想については、この建物を正しく表現できる自身がないので割愛する。ひとつ書くとすれば、納まりがとてもシンプルだということである。開口部のサッシや手すりの根元、階段と壁の接する部分などとてもシンプルである。別の言い方で言うと雑にそのまま納めてあるように見える。日本が細かすぎるのかもしれない。
次に向かおうと駐車場のお金を払おうとしたが、どうも払えない。クレジットカードでも現金でも無理である。いろいろ調べると銀行口座と連動した駐車場カードがいるらしい。しかし、そんなものはない。そこで、列んでいる後ろの人に「現金を渡すので、あなたの駐車場カードで支払ってくれないか」と相談してみる。そうすると快く引き受けてくれた。こういうときヨーロッパの人は親切に対応してくれる。本当に助かった。
その次に向かったのは、ファン・ネレ工場。ナビ様(とてもありがたいので敬称なしでは呼べない)が案内してくれるので、問題なく着いた。しかし、入れるのかどうか。そういうときにする行動はひとつ。まず何気なく入ってみる。ゲートでは何かしらのカードがいるらしい。そのうちガードマンから声をかけられる。見学したい旨を伝えると、「建物の中には絶対入らないこと」という条件で入れてくれることになった。ラッキー!これまでの旅の経験から、こういうことはよくあるのを知っている。だめもとの確信犯でも、とにかくやってみるものだ。迷惑にならない範囲で大胆に熱意を示すことが、ポイントのような気がする。
ファン・ネレ工場の建物群は、1931年に建設された建物で、2014年に世界遺産に登録されている。設計はファン・デル・フルフト=ブリンクマン設計事務所である。1995年までたばこ・コーヒー・紅茶の工場として使用されており、現在は、賃貸オフィス、ギャラリーとなっているようである。
外壁のほとんどがスチールサッシにはめ込まれたガラス窓となっており、非常に明るく開放的な空間で工場とはとても思えない。とくに連続するスチールサッシの繊細な垂直線が美しい。また、工場をつなぐブリッジがとてもシンプルで美しく、いつまでいても見飽きない。
文化財の構造補強では、木造や煉瓦造においても鉄骨を用いることがある。これは機能的に最も合理的であるからだが、一方でそれらは異質なものとして嫌われることが多い。その理由は、意匠の問題ではないかと最近考えている。補強がやむなく見えるのではなく、見えるのであれば、積極的にその機能を表現すべきではないだろうか。控えめにするのではなく、主張することで調和がとれるような事例もあるように思う。外部からの避難滑り台も非常に繊細である。これで安全に脱出できるのかとても不安であるが、こだわりはさすがとしか言えない。
次に建築博物館へと向いナビ様をセットする。そうすると、なんとクンストハル美術館の近くではないか。そういえばミュージアムパークと書かれてあったように思う。なんて無駄な動きを!そして、またあの駐車場に駐めなければならないのかと思うと憂鬱だが、出る方法も分かっているので、開き直れば気持ちは楽かも。
建築博物館自体は、展示で特筆すべきことは個人的にはない。ただ、ファン・ネレ工場の本を購入できたことはよかった。また、附属施設としてのSonneveld Houseの見学ができた。これは、ファン・ネレ工場と同じブリンクマン事務所の設計である。内部で修復工事の映像が流れており、聞き取り調査、痕跡調査など、やはり日本と同じような手順なのだということが分かった。
文化財修理では復原の厳密さが最も重要な課題となる。調べて分かることはよいが、分からないことでもなんらかの形を表現しなければ、全体が建築として完成しない。今回のように外国で、わずかな説明でどこまで理解出来るかを考えたとき、真正性がどの程度あるのかを建物においてどう表現するかが重要なのではないかと考えさせられた。
この近辺には同じような白い箱の家がならんでいる。建築学科に入ったばかりは、設計演習でこのような模型を作らされて、建築とはこういうものだと勘違いしていたことを思い出す。建築に対してどこからまずアプローチしていき、どのように世界を拡げるかも大切なことだ。振り返ると、自分の世界は一般からみればかなり不思議な方向に延びてきてしまっている。良いんだか悪いんだか。
さて、昼ご飯の話がでないが、実はご飯が食べられていない。時間を逃してしまい、結局美術館のレストランで、「スープならある」と言われ、それでしのぐ。スープとパンとビール。ワインだとキリスト教の教会で食べさせてもらうようなラインナップだと思いながら、食糧にありつけたことに感謝して食すことにした。
その後は、アントウェルペンで宿泊となる。オランダ人の情けにすがって駐車場から車を出し、また延々と車を走らせてベルギーへと戻る。その日は遅くなり、晩ご飯のレストランが開いている時間を逃し、また簡単な食事となってしまった。