みなさん、こんにちは。
文化財構造計画の冨永です。
またしばらく間が空いてしまいました。今年度の業務のかかりと来年度の計画が始まり出すと、ばたばたして書けなくなってしまいます。年々忙しくなっており、どうなってしまうのかと思う今日この頃です。
さて、このままでは全然ベルギー編が終わらないのであせってきました。巻いて書きましょう。
5/2
朝起きてシャワーを浴びる。昨日は酔いと疲れでそのまま寝てしまったからである。いつも酔っぱらって夜は何もできないので、今回の旅行はこのペースで過ごすことにした。
7時半すぎに朝食に行くとほかにはだれもいない。この町ではまだ起きてくる時間ではないようだ。チャペルの身廊に設けられたレストランのアプス部分に座り、朝食をとる。これまでと同様バイキング形式だが、料理の品が違う。クロワッサンなどどこから見てもただのクロワッサンだが、色の照りといい形といい、なんともおいしそうだ。そして実においしい。さすが、4つ星ホテルは違う。
会場には音楽が流れている。その音がすばらしく、天井から降ってくるようだ。そういえばこの場所はかつて教会のアプス部分である。教会堂の中で最も壮麗な場所なのだから、音がよいのは当然なのかもしれない。しかもここはアプスのため天井は半ドーム状になっているためか、音が三方から浴びるように聞こえてくるように感じる。食べ物といい音楽といい、なんとも贅沢な朝食であった。
昨日のマーストリヒト入りが遅かったので、朝食後からチェックアウトまでに町を散策。レンタカーでの旅行は、車をどう止めておくかがポイントになる。町では一度止めたらできるだけ動かさない方がよい。
まずは一番早く開いている聖母教会へ向かう。歩いて15分くらいか。その間はすべて石畳。絵に描いたようなヨーロッパの町並みである。伝統的な古い町並みが続く。どこでも絵になるようにも感じるが、どこも同じようでもあり、なかなか写真をとる対象が決まらない。よく言えば調和がとれているが、悪くいえばみな似たり寄ったり。日本では珍しい煉瓦造建物だが、こんなに当たり前にならべられると写真をとるほどのものかという気になる。西洋人が日本で洋館を見てもなんでこんな当たり前のものを?という感覚なのかもしれない。
聖母教会はロマネスクのバシリカ式の聖堂である。ゴシックとは違う素朴な外観に様式としての古さを感じる。ゴシックのような垂直線の強調がなく、ただ煉瓦と石を積み上げた壁体は、作り上げたデザインではない素材の力強さを感じる。
朝のミサをしているところだったので、こっそり中に入る。室内は暗く、祭壇のみが明るく照らされ、神々しく浮かび上がっており、両脇でステンドグラスが美しく輝いている。まさに静謐で荘厳な宗教空間である。闇から光へ、神に救いを求め、すべてをゆだねるための空間であることを強く感じる。
アプスへと向けられる指向性こそが、本来の教会建築のめざすところであろうし、その目的で作られている。しかし、今回のホテルのように、その建物をコンバージョンしてしまうと、建物の目的がまったく異なることから、この指向性は必要ない。ホテルであれば、その動線は複雑で、ロビー、レセプション、レストラン、書籍コーナーなど様々な対象への動線をつなぐ場所となる。そのため、建物が本来持っている指向性は不要となり、消すように改造することになる。建物の用途を変えるということは、ただ機能が変わるだけでなく、建物の形状の持つ特質も変えることなのだと改めて考えさせられた。
その次は、ホテルと同じように教会をコンバージョンした書店に行く。この書店は世界の美しい書店として認定されているようである。内部は、身廊部分に3階建てのフロアを設け、床面積を増やしている。やはり身廊に何を持ってくるかがポイントのようだ。アプス部分はカフェとなっていた。新設部分は主に鉄骨で黒い塗装がされていた。オリジナルの壁面は薄黄色い石材で、それとの対比をなすような配色である。違和感はない。新設部分には特徴的な意匠があるわけではない。当初の空間をどう切り取り、どうみせるか。新設部分が陰影となって空間を新たな形に切り取り直しているのかもしれない。
最後は聖セルファース教会を見学に行く。内部はさきほどの教会よりも明るく広い。天井も白く全体が明るい感じであった。建築技術が向上し、窓が大きくなったことにもよるのであろう。こちらも11世紀から15世紀に建てられたようだが、聖母教会と比べると新しさを感じる。古い新しいがよい悪いではないが、大きく広く豪華になった分だけ、宗教の基本が損なわれるように思うのは、きっと邪推なのだろう。
ホテルをチェックアウトし、ヴィーベンハの設計した陶器工場の建物を見に行く。事務所へと改造されていたため内部には入れず。改修によって道路側の窓が拡げられ外部のコンクリート部分はペンキを塗られたようだ。当初の状況を見てみたかった。
つぎはユトレヒトに向かう。ここから約2時間の距離である。途中でガソリンを補給し、シュレーダー邸に到着。ガソリン補給のやり方がわからず手間取っていたため、時間はぎりぎりとなった。
シュレーダー邸は今回みたかった建物のひとつである。ツアーには事前に予約が必要であった。予約が遅れ満員となり一度あきらめたが、数日後にかろうじて空きが出たため、敗者復活で参加となった。日本語の説明イヤホンをもち、内部も見学。案内の学芸員の方が2階間仕切りを動かし、用途による内部空間の変化を見せてくれた。
リートフェルトは家具作家となってから建築を勉強して建築家となったようだが、この建物は人を入れる家具のようであった。空間をどうきりとるか、色彩によってどう表現するかに注意を払われている。一方、建材のもつ表情を極力消しているし、雨仕舞いなどには注意を払っていないようにに思える。当時においては、それまでの伝統的な家屋から考えれば、斬新なデザインであり、こだわり抜いた空間構成であることは間違いない。でもどうしても巨大な模型のように感じてしまう。
見学のあとホテルに向かう。次のホテルは運河の倉庫を改修したホテルである。ふつうのホテルでチェックインをして案内される。そこから歩いて2分程度のところに運河があり、川岸へと降りる。川には運河を浚渫船とおぼしき船が停まっている。少し歩いたドアの前で案内の方が立ち止まり鍵をあけた。
ドアを開ければすぐにベッド。アーチ天井のワンルームである。ガラスの仕切りがあり奥が風呂・便所・洗面のサニタリーゾーンとなっている。この外からいきなりプライベート空間という構成は頭ではわかっていたことだが、いざここに泊まるとなると、抵抗を禁じ得ない。
ドア一枚外は誰もが歩く道である。その前は川。なかなか負のロケーションである。雨が降っており、内部の湿度は高い。暖房がつけてあったこともあるが、蒸し暑いのに窓がほとんどない。とても閉鎖的な空間である。
また入室において大きなミスを犯す。最初に奥がどうなっているのか確認するために、靴のまま部屋の奥までいってしまった。振り返ると床が泥で汚れてしまっていた。雨で運河の岸の汚れがついていたのだ。通常のホテルだとそれまでに館内をいろいろ歩くので部屋まで足跡がつくようなことはない。ここは外からすぐ部屋なのでこういうことになる。
急な階段を川岸に降りて家に帰るなど、正直ホームレスになった気分である。これで通常のホテルと同じ金額はどうかと思うが・・。
部屋にいてもしかたがないので町を散策にいく。中央郵便局の内部を見たかったのだが、どうも閉鎖したようだ。おそらくこれも何かにコンバージョンするのだろう。ユトレヒトはどうも相性がよくないのかもしれない・・・。しばらく散策して食事をすることにした。
まず人が多く入っているテラスのある店に入る。ビールを頼みメニューを見たが、どうも魅力的なメニューがない。このままではユトレヒト全敗になるので、ビールだけで店を出る。もう少し調べて今度は、レストランに入る。こちらも中に人が結構入っていてよい雰囲気である。
店員にお勧めを聞き、エスカルゴと馬のステーキを頼む。これはどちらもおいしかった。なんとか1勝できてよかった。今日は歩きとドライブで疲れており、ワイン2杯ですっかり酔ってしまった。川岸の穴に帰って寝ることにしよう。